院長ブログ blog

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高知市内で発生した中毒が疑われた犬の不審死について

 4月12日付の高知新聞Plusで掲載された犬の不審死について書きます。記事に掲載された犬の死亡確認は当院で行われました。私は動物医療の専門家として類推で安易な物言いは避けるべきだとは考えておりますが、客観的な視点を加えたうえで個人的な見解を整理しておきたいと思います。この記事には不幸な被害を拡大させないことと、動物と人の共生社会の難しさについて考える意図があります。

 被害に遭った犬は当院をかかりつけとする若い日本犬でした。夕方の散歩後に急に犬の容体が悪くなったとの電話連絡があり、私はその犬の診療記録から過去に胸腔の病変があったことを思い出していました。外出中だった私はすぐに診察が可能な状況ではなかったこともあって、発作や一時的な呼吸困難の可能性を考慮して容体急変時の連絡と要経過観察を指示しました。それから10分後に再び電話が鳴り、口に泡が溢れて苦しんでいるとのことでした。私は緊急状態であると認識し、すぐに当院へ向かうようにお伝えしました。しかし、病院に到着した時、犬は既に息を引き取っておりました。容体の悪化から死亡までの時間が僅か数十分であったこと、強い吐き気と流涎症状が急激に発現したこと、死亡後の検査において過去の病気の再発兆候が確認されなかったことから、私は中毒死の可能性が最も高いと判断しました。

 上記はあくまで私の推察であり、真実は明らかになっていません。当該犬の飼い主様は突然に愛犬を亡くされ、その無念は想像するに余りあります。仮にこのケースが何者かによる毒物混入であったとすれば、社会を不安に陥れる卑劣極まりない行為と言えます。犬猫に中毒を引き起こす毒は一部市販の農薬や除草剤から作製することができ、小型犬であれば極少量(1グラム以下)で致死量に達するものも存在します。本件については警察が捜査に乗り出しています。

 私は30年ほど前に自宅で飼っていた飼い猫が、近所の犬と同日同時間帯に不審死した経験があります。その亡骸らには酷く苦しんだような様子がありましたので、やはり毒物であったと考えています。その時、私は犬猫を故意に殺める人間もいるという事実を知ったのです。過去に行われた内閣府の世論調査では、犬猫の飼育に否定的な人は全体の2~3割程いるとされ、それが我々の「社会の現実」であることを知ります。動物病院に訪れる人の多くは動物好きだと思いますので、私はその2~3割の人に会うことはほとんどありません。無論、動物の生命を粗末に扱うことは現代社会では許されざる行為ですが、私は今回の件で、動物に対して嫌悪感を持つ人がいることもまた「社会の現実」という避けられない事実を思い出したのです。今の私にできることは唯一、専門家としての客観的な立場で真実を見据え、私情に惑わされず可能な限り正確な情報を発信するのみと感じました。 

合掌