院長の独り言
飼い主様からの手紙
この仕事をしていると時々、家族を亡くされた飼い主様から丁寧なお手紙をいただくことがあります。
臨床獣医師として働いていると、仕事上、動物を「症例」に変換して認識している部分は確実にあります。一般的な感覚としては、我が子を「症例」として認識されることは、決して気分のよいものではないと思います。一方で、生体に起こる変化を病態として捉え、獣医学的な観点からその場の最善を選択するという診察のプロセスにおいて、生命活動を現象として理解する思考回路は不可欠なものだと私は考えています。
前述した飼い主様からのお手紙は、「症例」に寄る私の意識を、現実社会へ引き戻してくれます。臨床では、学問的な視点と社会的な視点の両者のバランスが極めて重要だと常々感じておりますが、刻々と変化する臨床現場でそのバランスを保つことは容易ではありません。診療に集中するあまり、目の前にいる犬猫が誰かの大切な家族であるという意識が低下する時があるのです。
温かい動物医療を提供したいという願いは、臨床現場に立つ者が持っている共通認識だと思います。私たちは、現場の多忙さや余裕のなさによって、その認識が薄らいでしまうことがあります。しかし、飼い主様が亡くなった家族に抱いている想いを手紙の文字の運びから感じることで、診察台の上にいる犬猫の向こう側に、愛情に溢れた静かな生活があることを再認識し、思いを新たにまた診療に向かうのでした。